農と食のこと

家業の農業を次代へつなぎたい──
環境に配慮した栽培方法へシフトし、
都市農業の発展に貢献

細野 英雄さん(77)
南町田

 町田市南町田で農業を営む細野英雄さん(77)が就農したのは今から57年前。先祖代々農業を営んできた家系で、自身が農業を継ぐのに迷いはなかったといいます。昭和52年にはイチゴで東京都知事賞を受賞し、現在はナスやキュウリなど年間約20種類の野菜を育て、アグリハウスみなみや神奈川青果株式会社に出荷しています。「先代から受け継いだ農業を懸命に守っていきたい」。都市開発が進む中でも環境に配慮した栽培方法を追求し、こだわりの野菜を作り続ける細野さんは都市農業の未来を見据えています。
(取材担当 南支店:郡司隆幸)

農作業は家族で協力
収穫の喜びが生きがいに

今シーズンも納得のいく野菜を収穫することができました

 細野さんは就農して今年で57年を迎えました。野菜や養蚕、竹の籠など幅広く農業を営む家系に生まれた細野さんにとって、子どもの頃から農業は身近で家業を継ぐことに迷いはなかったといいます。品質をより高めるために野菜を軸にした経営へ転換するなど工夫を重ねながら日々農業に向き合ってきました。

 現在は、自宅周辺の約80アールの畑を、奥さまとご長男の家族3人で協力しながら農作業に取り組んでいます。年間を通して20種類ほどの野菜を作り、アグリハウスみなみや神奈川青果株式会社に出荷しています。中でも、気候の変化に合わせた水やりや、追肥を調整して栽培するナスとキュウリは細野さんの自信作です。最盛期の夏場には、作業時間が10時間を超える日もありますが、収穫を楽しみに、充実した毎日を送っています。

きっかけは生産仲間の影響
栽培方法を追求し
イチゴで都知事賞を獲得

 「手塩にかけた自慢の野菜が品評会で表彰されたときに、農業をしてきてよかったと感じる」と細野さんはやりがいを語ります。これまで数々の賞を受賞しましたが、中でも思い出深いのは、昭和52年にイチゴで東京都知事賞を受賞したことです。

 当時、南町田には町谷出荷組合という組合があり、農家の大半がイチゴ栽培に取り組んでいました。仲間に感化され、細野さん自身も挑戦したいという気持ちが芽生えたといいます。イチゴは苗作りから収穫まで時間がかかるものの、露地栽培の品目の中では収益が高く、新たな栽培品目として目を付けました。

 より良い栽培方法を追求するため勉強して知識を蓄え、圃場(ほじょう)で試行錯誤を繰り返しました。「土壌作り、苗作り、地回りの3つがうまくいき、納得のいくイチゴを作ることができた。これが都知事賞につながったと思う」と受賞当時を振り返ります。

 生協や大丸、小田急百貨店などへ出荷を始めたのもイチゴがきっかけです。ハクビシンやタヌキなどの被害により安定した収穫量を確保することが難しくなってしまい、現在はイチゴの生産を行っていませんが、今でも納得のいく農産物を作りたいという姿勢に変わりはありません。

都市農業を守り
納得のいく野菜を
作り続けたい

キュウリの生育を見守る細野さん

 昨年11月には商業施設「南町田グランベリーパーク」がオープンし、都市開発が進み、戸建て住宅やマンションが次々と建築されています。人の往来が増え、細野さんが農業を営む南町田の環境は以前と大きく変わりました。こうした影響を受け、農薬は人通りの少ない時間帯に散布したり、比較的においのまん延しにくい牛ふんや馬ふんを配合した肥料を使ったりするなど、環境に配慮した農業が求められてきているといいます。

 都市農業を取り巻く環境が厳しくなる中でも、細野さんは都市農業の未来を見据えています。「仕事のパートナーでもある息子へ、先代から受け継いだ家業をつなぎ、ここで農業を続けてほしいと常に話しています。これからも地域の皆さんに喜んでもらえるよう、もっと良質で、自分の納得のいく野菜を作り続けていきたい」と今後の抱負を力強く語ります。