農と食のこと

いちご狩り農園からつくる
サステナブルな未来

宮﨑 政明さん(60)
相原町

 町田市相原町でいちご狩り農園を営む宮﨑 政明さん。栽培における品質管理や規格外品の再利用方法などが高く評価され、2020年12月に国連からSDGsのロゴ認証の認定を受けました(※1)。町田市のいちご狩り農園での取り組みが、持続可能な社会づくりにつながっています。今回は、「あくまで自分が栽培するいちごの安全性を保証する手段」と話す、宮﨑さんの取り組みを紹介します。
(取材担当 堺支店:武内啓一郎)

安心・安全ないちごを
届けるために

東京都GAP認証と、自慢のいちごジャムを持つ宮﨑さん

 宮﨑政明さんは、2015年より相原駅の近くでいちご狩り農園を営んできました。お客さまがいちごを直接収穫して食べるという、いちご狩り事業の特性上、栽培するいちごの安全管理や品質向上には特に気を使っています。使用する肥料や農薬はすべて安全データシートを販売元から取得し、大切に保存。また、こうした薬品を使用するタイミングや使用量もすべて記録し、いちごの実に残る残留農薬の量も測定してすべて記録しています。いちごの栽培には農園の敷地内にある井戸水を使用していますが、この井戸水の水質にも気を配り、毎年水質検査を行っています。

 こうした地道な努力が実を結び、宮﨑さんは2019年から東京都GAP、JGAP、ASIAGAP(※2)の認証を受け、その後も毎年、資料を検査機関に提出して監査を受け、これらの認証を更新しています。

楽しんでもらうための
ユニバーサルデザイン

おいしく実ったいちご

 「農園を訪れたすべてのお客さまに、快適な環境でいちご狩りを楽しんでほしい」と宮﨑さんは話します。その思いが反映された温室は、車いすやベビーカーのお客さまでも安心して訪れることができるよう、段差が少なく、通路も広く設計されたユニバーサルデザイン(高齢や障がいの有無などにかかわらず、すべての人が快適に利用できるデザイン)です。

 また、新型コロナウイルス感染症対策にも力を入れており、受付にサーモグラフィーセンサーを設置し、各温室の入り口には消毒液を設置。温室を移動するたびに、検温と消毒を行って感染拡大防止に努めています。以前は口頭で説明を行っていましたが、現在は動画を用いることで、従業員と利用者との接触を減らす努力をしています。

ジャム作りが
SDGsの取り組みに

農園に掲示されたSDGsのロゴと取り組みの解説

 お客さまに収穫されず、熟れすぎたいちごや規格外品の再利用方法については、農園の開設時から課題となっていました。宮﨑さんはこの課題を保健所に相談。その際、宮﨑さんの自宅に併設されていた佃煮工場(惣菜製造業免許)を設立した時点で、より衛生基準の高いジャム工場(菓子製造業免許)の設立基準を満たす設備を導入していました。

 「丹精込めてつくったいちごをすべて使い切りたい」。宮﨑さんは、その思いからいちごジャム生産事業の立ち上げを決意しました。現在、このいちごジャムは町田市の名産品に指定され、アグリハウスさかいや市内のスーパーマーケットなどで販売されています。

 こうした環境や人への配慮、フードロス削減の取り組みが高く評価され、2020年12月に国連からSDGsのロゴ認証の認定を受けました。

 SDGsのロゴ認証の取得については、思いがけず、家族連れなどから大きな反響があったといいます。

 「一緒に来る保護者よりも、学校で学んでいる小学生の子どもたちの方がよく知っている」と、宮﨑さんは優しい笑顔で話します。個人の農家でSDGsのロゴ認証を受けているのは全国的にも珍しく、宮﨑さんのいちご農園の取り組みは、農林水産省をはじめ、報道関係者からも注目を集めています。

 「SDGsやGAP認証がこの取り組みの目的ではなく、あくまで自分が栽培するいちごの安全性を保証する手段にすぎない」と冷静に話す宮﨑さん。より安心・安全ないちごを来園者に食べてもらうための宮﨑さんの挑戦は、これからも続きます。

(※1)SDGs ロゴ/ホイール/アイコンの使用において、資金調達や商業用途で SDGs ブランディングを用いる場合には、書面での申請により事前許可が必要になります。

(※2)東京都GAP(ギャップ)とは、「Good(良い)Agricultural(農業)をPractice(実践)する」の略です。一般的には、「農業生産工程管理」と呼ばれ、農業における食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための取り組みを指します。また、ASIAGAP/JGAPは、農場やJA等の生産者団体が活用する農場管理の基準です。農薬・肥料の管理など、持続可能な農業につながる多くの基準が定められています。