農と食のこと

地場産野菜を通じて育んだ
地域に寄り添う農業

鈴木 忠四さん(75)
達彦さん(46)
南地区つくし野

 田園都市線すずかけ台駅のほど近く、住宅街の中に鈴木忠四さんの畑があります。忠四さんを筆頭に、妻の昌子さん、息子の達彦さんが四季折々、丹精込めて野菜や果樹を育てています。鈴木さん一家の野菜づくりで大切にしているのは、お客さまの喜びのために手間ひまを惜しまないこと。消費者目線を大切にした温かな心づかいは、野菜のおいしさと相まって年々人気が高まっています。今号は、一家の野菜づくりをご紹介します。
(取材担当 南支店:渡邉 咲絢)

2足の草鞋を履きながら
続けた農業

キャベツを収穫する忠四さん

 鈴木忠四さんは、つくし野で代々農業を営む家に生まれました。そのため、幼い頃から自然と農業に携わってきたといいます。

 忠四さんが若い頃は近所に小川出荷組合があり、近隣の農家たちがつくった農作物を集めて田園調布などの市場まで運んでいたそうで「夜中に栗を100キロ運んだこともあった」と当時を懐かしそうに振り返ります。しかし、時代とともに区画整理が進み、昭和40年頃には組合はなくなってしまいました。

 大学卒業後、忠四さんは会計事務所での勤務を経て、26歳の頃から昼間は畑仕事、夜間はゴルフ練習場の管理を行うという生活を20年ほど続けました。

 転機となったのは、45歳の頃。先代が体調を崩したのを機に、本格的に農業中心の生活になりました。

地場産野菜の販売を通じて
生まれた縁

野菜を見栄えよく袋詰めする昌子さん

 鈴木さんの畑で採れた野菜は、畑の敷地内に設置した直売所で販売しています。毎週月・水・金曜日の夕方に営業しているため、その前日は家族総出で出荷の準備に追われます。

 地域に密着して野菜を販売することで会話が生まれ、やがて顔見知りになり、信頼が育まれた、と感じているそうです。時には、直売所が縁で知り合った足の悪い一人暮らしの方の自宅に荷物を届けることもあり、忠四さんは「全員には無理でも、地域の方にできる限りのことをしたい」と力強く話しました。

 忠四さんのこうした考えには、家族も賛同しています。

 ミニトマトの最盛期には、深夜まで袋詰めをすることも。妻の昌子さんは収穫されたばかりのミニトマトを一つ一つ丁寧にぬぐい、「赤や黄色のミニトマトをバランス良く、カラフルに袋詰めしているの」と笑顔で話します。

 たとえひと手間かかっても、〝目でも食を楽しむ〟ことや、料理をしやすいように、タケノコと糠(ぬか)、山椒の葉をセットにして販売するなど、女性ならではの細やかな気づかいをするのが昌子さんのこだわりです。一家の思いが伝わるのか「鈴木さんの野菜がおいしすぎて、スーパーでは野菜を買えなくなった」というお客さまも多く、近隣の人々は週に3回の販売日を心待ちにしています。

 忠四さんは長年、南つくし野のやなぎ公園で自治会が主催する朝市にも野菜を出荷しています。はじまりは、自治会長に「地元で採れた野菜を朝市に出荷してほしい」と頼まれたことがきっかけだったといいます。

 忠四さんは「地域の人には、この土地で採れた野菜を食べてもらいたい。地元で採れた野菜だからこその味がある」と誇らしげに話しました。

地域に寄り添う
農業の継承

たわわに実った、自宅から移植したキウイフルーツ

 平成20年には息子の達彦さんが就農。「初めの頃は勝手が分からず、大変なことも多かったが、ここ何年かで野菜づくりを楽しめるようになった」と話します。

 現在では、達彦さんが中心となってビニールハウスでトマトやミニトマトを栽培し、コンパニオンプランツ(共栄作物)の導入など、日々工夫を凝らしながら野菜づくりに精を出しています。

 鈴木さんの畑では、トマトのほかにも、ダイコン、ハクサイ、ホウレンソウに加え、自宅の庭から移植したキウイフルーツや柿、ビワなどの果樹も豊富です。達彦さんは今年から野菜部会南支部に加入し、他の生産者とも積極的に交流しながら栽培技術を深めています。

 地域に寄り添い、地場産野菜ならではのおいしさを地元の人々に届ける鈴木さん一家の取り組みは、忠四さんと昌子さんから達彦さんへ受け継がれ、これからも続いていきます。