農と食のこと

地域、親子で手を取り合い
“農”の舞台で挑戦し続ける

須藤 議雄(のりお)さん(75)
太朗さん(47)
図師町

須藤議雄さん(右)・太朗さん(左)

 年々水田が減少しつつある町田市。そうした厳しい情勢の中、図師町で米と野菜を親子で生産する須藤議雄さんと太朗さん。2023年は町田市の農家を代表して宮中に米を献上する「宮中献穀米(きゅうちゅうけんこくまい)」の生産に携わるなど、須藤さん親子にとって挑戦の年となりました。今回は、親子で手を取り合って農業に勤しみ、挑戦し続ける姿を紹介します。
 (取材担当 忠生支店:三澤 祐一、峯岸 敦)

地域のつながりが
挑戦を支えてくれた

実りの秋、収穫を祝う「抜穗祭」の様子

 父・議雄さんが就農したのは57歳の頃。長年勤めていた職場を退職し、家業を継いで兼業農家となりました。当初は露地栽培で季節野菜を中心に育てていましたが、就農後、4年ほど経過した頃、新たに米づくりに挑戦することを決めました。しかし、議雄さんは米をつくった経験がありませんでした。右も左も分からず困っていた議雄さんを助けたのは、議雄さんが地域から選任を受けた農業委員会の存在でした。

 当時農業委員であった議雄さんは「農業委員会で行う米作り農業体験事業の中で、経験者からノウハウを教えてもらい、試行錯誤をしながら経験を積むことができた」と振り返ります。先輩たちの教えがあったからこそ、新たな挑戦に踏み出せたと話しました。

宮中へ米を献上する
宮中献穀米を生産

 2023年、議雄さんに町田市の農家代表として、皇室で行われる儀式「新嘗祭(にいなめさい)」で献上するお米「宮中献穀米(きゅうちゅうけんこくまい)」を生産するという大きな挑戦の機会が巡ってきました。

 宮中献穀米は厳格な管理の下で栽培されます。田植えの儀式「御田植祭の儀」は滞りなく行われたものの、米づくりで一番水が必要となる8月上旬に水不足が発生してしまいました。このとき力となったのがJA町田市の営農支援課と隣接耕作者の方々です。河川からポンプで水を引く等、できうる限りの対策を行って水不足を乗り越えました。その後は順調に稲が育ち、秋には無事、収穫の儀式「抜穗祭(ぬきぼさい)」を迎えることができました。

 この挑戦を経て「米の耕作は天候、特に水田の水管理が難しい。地域で力を合わせて水不足を乗り越えたことに意義があった」と議雄さんは力強く話しました。

販路拡大と定植時期の変更で
価格高騰に立ち向かう

真剣な表情の太朗さん

 「身近な農業者として父がいましたが、自分でも農業のことを学びたいと思いました」。2012年に就農した息子の太朗さんは、万松寺谷戸で行われている町田市農業研修の存在を知り、就農の決意を固めた、と話します。

 現在、露地・ハウス栽培ともに野菜の栽培は太朗さんが任されています。50アール超の耕作地の大半を管理し、研修時代に得た知識や議雄さんから実地で学んだこと、青壮年部会等で得た知識を活かしながら日々奮闘しています。

 ハウスでは主にトマト、ホウレンソウ、カブの栽培を行い、露地ではピーマン、ナス、ゴーヤを育てています。23年5月初旬にはアグリハウス忠生にトマトを出荷することができ、利用者からも好評でした。その他にもオカワカメ等の珍しい品目の栽培にも着手しており、徐々に販路を広げながら、薬師池公園 四季彩の杜を中心に出荷しています。しかし、従来通りの農業経営では昨今の原材料費・光熱費の価格高騰に対応できません。太朗さんは工夫の1つとして、ハウス栽培のトマト定植時期を従来の1月から3月頃にずらすことでハウスの暖房費を抑えています。それに加えて各種補助金制度の大切さも感じています。「認定農業者として町田市の補助金制度については聞いていますが、東京都や国の補助金制度には分からないことも多い」。だからこそ、今後はさらにJAとの連携を深め、最新の有用情報をキャッチしたいと太朗さんは語りました。