農と食のこと

魅せられる側から魅せる側へ 努力尽きない菊作り

峯岸 忠さん
多摩市南野

峯岸 忠さん(69) 多摩市南野峯岸 忠さん(69) 多摩市南野

 峯岸さんは、鶴川や忠生地区の菊友の会会員へ幾度となく講演や実地の指導を行っており、話が具体的で分かりやすいと大変好評です。「菊作りは分からないことだらけ。まだまだ勉強中」と言いますが、今後どのような作品を出品するのか期待が膨らみます。

 「高貴」「高潔」などの花言葉を持ち、古くから日本人の間で品格の象徴とされてきた菊。その高貴な美しさにひかれて菊作りを始め、数年で内閣総理大臣賞を受賞するまでに腕を上げた組合員がいます。園芸学校を卒業後に花の販売店を営んできた、峯岸忠さんです。妻のしず子さんも菊作りに励んでいます。

独自の菊作りで才能が開花

 峯岸さんが菊作りを始めたのはおよそ4年前。近所で菊作りを趣味にする、鶴川菊友の会顧問・増田友一さんから、一緒に菊を作ろうと誘われたことがきっかけです。自宅の庭に温室を建て、全国の菊花展で使われる有名品種を先輩方に勧められるままに育て始めました。

 上手に咲かせるには、長年の経験と勘がものをいう菊作りの世界。峯岸さんは、手間暇を惜しまない丁寧な栽培管理で指導者からのアドバイスを実践し、異例の早さで腕前を上げていきました。

 菊作りを始めて2年目の平成25年には早くも菊花展出品に挑戦し、町田市菊花展や高幡不動尊菊まつりの特別賞に入賞。翌26年には町田市菊花展最高位の町田市長賞、高幡不動尊菊まつり最高位の内閣総理大臣賞に輝きました。

 勢いそのままに27年は、大正時代から続く東日本最大規模の名門菊花展・東京都観光菊花大会(日比谷公園)で優等主席、靖国神社奉納菊花展でも第一席入賞などを獲得。28年はついに、東京都観光菊花大会で特別賞上位該当の「都知事賞」に入賞。都内はおろか全国レベルにまで名を高めた峯岸さんの菊は「花びらひとつ、葉ひとつの細部まで均整が取れている」と称賛されています。

思いやりを持って菊に接する

 峯岸さんに菊作りを勧めた増田さんは「良い菊がどういうものなのか、太さや長さ、バランス、色などの細部まで熟知している」と、その目利きの力に舌を巻きます。

 菊作りへの探求心や努力も並大抵ではなく、特に「菊の出来は土で決まる」と、鉢土の研究に余念がありません。菊作りの時期には、全国一を決める菊花展・全日本菊花連盟全国大会で最優秀賞を幾度も受賞している、千葉県松戸市の吉田武雄さんの元へ月2回ほど訪れ、指導を仰ぎます。

 花の付くタイミングで意図的に肥料の効きを抑える特殊な薬剤を投入するなど、独自の栽培技術も編み出しました。

妻とともに菊作りを次世代に伝える

 峯岸さんが水やりをできない日は、しず子さんが代わりに担当します。しず子さんも今では菊に魅せられ、平成28年の第23回町田市菊花展で町田市長賞受賞に輝きました。

 今では「各品種の特徴を最大限に引き出してあげたい。厚物、ダルマ、福助などいろいろな部門があるが、菊が持つ多様な面白さを周りに伝えたい」と、夫婦二人三脚でこだわりの菊作りに励みます。

 峯岸さんは、手のかかる菊作りが生活の一部になり、「趣味のゴルフや旅行、特に最近は愛車・ハーレーダビッドソンでのツーリングに全然行けない」と少し残念がります。

 少年消防団の育成などの地域活動に加え、JA年金友の会や億友会、菊友の会役員として多忙な毎日ですが、「今度は自分が菊作りの魅力を伝える番。特に若い世代に菊作りの楽しさを知ってもらいたい」と話します。

数々の菊花展で上位入賞している峯岸さん
数々の菊花展で上位入賞している峯岸さん

きずな.2017年 春号_No.44掲載